八陣守護城
一冊目
舞台は南天竺の北岸。一人の老道士が海を望む石壇で一心に呪術の祈りを捧げている。石壇の下から、この国の役人たちが大王よりの命令のあった呪法が成就したかどうか?を道士に尋ねる。道士は大王のかねての望みであった大日本国を手に入れる謀略のために、先立って入り込んでいた二人の僧も小田春永に滅ぼされてしまったことを嘆き、今回のこの呪法がうまくゆけば自身が変身自在の大蛇となって海を渡り、日本を魔国におとしめるつもりであると言う。道士が一層祈りの声を高く呪文を唱えると高い浪が壇上まで押し寄せ、道士の姿は大蛇とかわり、海を渡ってゆく。

二冊目
舞台は安土城。小田春永亡き後、幼君春若丸の後見として叔父の北畑春雄卿は栄華を極めている。
ちかごろ南巌寺にて不思議の怪異があり、このことで評定ありと安土城に呼び出されたのは、大内義弘や春雄の老臣森三左衛門、鞠川玄蕃など。春雄はこの怪異をどうしたものかと問うと、三左衛門は、その妖怪が出没するのは亡き春永公によって滅ぼされた二人の僧のいた寺であり、今は誰も住むことなく、古狼や狐の住処となって、怪異をなすのであろうから、そのままにしておくのが良いという。これを聞いて大内義弘は、滅ぼされた二人の僧の残党が、この南巌寺に隠れ住んでいると思うので、やはり打ち捨てておくわけにはいかないだろうと意見する。傍若無人な鞠川玄蕃は義弘の言葉を遮り、強力でならす家来の荒熊軍太兵へをすでに南巌寺へ向かわせたので、もうすぐ妖怪を捕らえて帰るはずであると豪語する。ここへ空から荒熊軍太兵へが落ちてくる。軍太兵衛へは嘘八百で妖怪を取り逃がしたいきさつを語ってその場を逃げ出す。その跡に「南巌寺の一宗に帰依すれば御代は万世、このままならば祟りとなり、たちまち国は魔国となる」という妖しい一書が残り、これを読み上げた途端に煙と消え失せる。大内義弘と鞠川玄蕃が妖怪退治で意地を張り合うところへ加藻朝清の名代として嫡男の主計之助が妖怪退治に名乗り出る。北畑春雄卿の許しをうけた主計之助は局頭八十瀬の進言で此村大江の息子隼人之助とともに妖怪退治に向かう。

三冊目
舞台は南巌寺。妖怪退治に南巌寺へ行く道すがら、勇んで向かう主計之助と怖がりながらついてゆく隼人之助。二人の後を鞠川玄蕃と荒熊軍太兵へ主従が追い、二人が妖怪退治に失敗したなら寺に火をかけ、もし妖怪を退治したならば、二人を殺して妖怪の仕業にし、手柄を横取りするつもりでいる。主計之助、隼人之助両人が南巌寺に入ると、住む人のない屋内に豪華な調度品が飾られており、主計之助は、これも妖怪の成せる技と警戒する。ここへ森三左衛門の息女雛絹が現れ、主計之助への思いを打ち明けるが、雛絹を妖怪と怪しむ主計之助は警戒を解かない。化け物の正体を見せようという腰元たちの言葉に主計之助は雛絹とともに奥へ向かう。ひとり残された隼人之助は寺を逃げ出そうとするが、小田の息女春姫にとどめられる。隼人之助はこんな妖怪の出る寺に春姫がいることを不審に思うが、春姫が隼人之助に恋いこがれている事を知った八十瀬が、妖怪寺の噂を流し、春姫と逢わせようとしていたこと。また今朝は隼人之助から「この寺で逢おう」という手紙をもらったので、嬉しくて早くからこの寺に来ていたと話す。隼人之助は春姫に手紙をおくった覚えが無く、不審に思い春姫から手紙を見せてもらうと確かに自分の筆跡であったので驚く。ここに八十瀬が酔態で現る。ニセの手紙の一件は八十瀬の仕業であると見抜いた隼人之助は八十瀬を問いつめるが、八十瀬は恋の願いも出世の願いも南巌寺の本尊を頼めば思いのままと言い、その本尊を信じる気持ちがあるのなら、この巻物に春姫、隼人之助ふたりともに血判せよと巻物を渡す。隼人之助との恋を成就させたい春姫は喜んで巻物を開くが梵字で書かれた巻物に血判と聞き、隼人之助は八十瀬の正体がくだんの怪僧の残党であることを見抜く。八十瀬はこの寺を妖怪の住処とみせ知勇の武士を探して味方につけようとしていた。なおも血判をせまる八十瀬に軍太兵へが切り掛かるが、かえって腕をもぎ取られる。軍太兵への腕を八十瀬は隼人之助、春姫のまえに投げ捨て、そのうえ片腕を取られてひたすらに恭順の意思をあらわす軍太兵への首をねじ切って見せしめにする。そしてなおも二人に血判を迫る八十瀬。奥の間にいた主計之助も腰元たちがあやかしである事に気づき、雛絹をつれて奥より駆け出で八十瀬のまえに現れる。武勇にすぐれた加藻朝清の息子である主計之助であるならば、父に代わって血判せよと迫る八十瀬であったが、主計之助の抜いた刀「七星丸」の威徳に押され、たじろぐ隙に隼人之助、主計之助、春姫、雛絹は寺を逃げ出す。しかし後に残った鞠川玄蕃に隼人之助の筆跡で書かれた春姫あてのニセの呼び出し文を拾われてしまう。鞠川玄蕃の指図で寺に火がかけられるが、突然寺が鳴動し、地面から海水が湧き出てたちまちに辺りは海となり、悪龍に人々は苛まれる。この様子を聞いた加藻朝清が寺に現れ、英雄の威徳で悪龍を退治し、また大内義弘が来かかり、弓の弦を鳴らして魔物を退散させると、海水や悪龍の姿も消え、もとの寺の姿に戻る。義弘は加藻の武勇を讃える。そして幼君の近辺にも悪龍ありと警告する。幼君への忠誠を誓う二人は、天下を狙う悪龍と戦う決意を明かして館へ戻る。

四冊目
舞台は東山の仮御殿。
小田の幼君春若丸に将軍宣旨の詔があり、勅使を迎える仮御殿に北畑春雄が籠で到着する。春雄は迎えに出た鞠川玄蕃に加藻朝清が来ているかどうかを尋ね、また計略の密談を耳打ちしたあと立ち去ろうとするが此村隼人之助の母三浦から呼び止められる。三浦は若君を育て上げ、また隼人之助は若君の側近である。春雄の家来でもない隼人之助を謹慎させたのは、どんな咎めからであるのか?と直訴する。鞠川玄蕃は隼人之助の筆跡で書かれた春姫あての艶書を三浦に見せ、隼人之助は南巌寺の妖怪八十瀬と言い合わせて春姫を寺へ呼び出し、不義をしかけた罪によって謹慎の身となっていると言う。隼人之助の筆跡に何も言葉が出ない三浦は泣く泣く引き下がる。ここへ北畑の老臣森三左衛門と加藻朝清が到着し、挨拶のうちに春若丸は急病で来られなくなり、朝清が一人で宣旨をうけると話す。勅使の饗応の準備を終わった腰元たちが、侍衆の噂をしていると雛絹が現れる。雛絹に執心の鞠川玄蕃は雛絹に言い寄るが、母の柵に見咎められ、よい機会とばかり雛絹を妻にと申し出る。柵は言葉柔らかに鞠川への返事をのがれ、雛絹を連れて御殿の奥へはいる。御殿の中では主計之助が勅使に粗略がないかと部屋を見回るうち、雛絹が主計之助を見つけて傍へ駆け寄る。そして、なかなか逢瀬の機会が無いことを恨み、膝にもたれて泣く。この様子を見つけた鞠川玄蕃は二人を不義者呼ばわりし、主計之助に切腹か打首と詰め寄る。ここに森三左衛門と加藻朝清が現れ、三左衛門は娘の雛絹を朝清は嫡子の主計之助を成敗すると言い出す。二人の命があわやという時に北畑春雄が現れ、三左衛門と朝清の二人は小田の旧臣として長く功労を尽くして来た。その功に因んで二つの家の間で縁組みさせるつもりでいたので、ありふれた不義でもなかろうと言い、この機会に春雄が仲立ちとなって祝言させようという。この言葉に主計之助、雛絹の二人の命は救われる。また春雄は春若丸の姿が見えないのはどうした事かと朝清に尋ねると、若君は上洛の途中で発病し、しかたなく安土城へ返し、勅使への返事は朝清ひとりで承ると答える。春雄は主計之助に若君の病気平癒を祈って祇園社へ参籠することを命じる。主計之助は父朝清の心底を気遣い、立ち去りがたく思うが、春雄の命令に仕方なく祇園社へ向かう。こうして勅使の宣旨を受ける時刻間際になって、突然春雄が苦しみだし、三左衛門と玄蕃に介抱させて奥の間に入る。そして加藻朝清も主計之助の嫁となった雛絹をつれて次の間に入る。勅使山陰中納言が席につくと、加藻朝清と森三左衛門がそれぞれ若君と北畑春雄の名代として席につく。勅使は将軍として若君を任命し、また北畑春雄をその後見とすると宣旨する。この旨、違背なきうえは天盃を承け賜れと言って三左衛門に酒を呑ませ、朝清もまたこの盃で酒を飲み干す。勅使が帰り、主計之助を京に残し、安土へ帰る朝清に三左衛門は雛絹を付き添わせる。二人を見送った三左衛門はにわかに顔色が変わり苦しみだす。妻の柵は驚き介抱するが、三左衛門は主君の計略を知った上で毒酒を飲み、武勇に優れた朝清にも毒酒を飲ませた。主君にはさぞ満足であろうと言うと、一間より春雄が現れ、自分の命と引き換えに主君の計略を成功させた三左衛門を讃える。三左衛門は勅使が春雄の内意を受けて、盃に毒を仕込み、春雄が天下を奪うために邪魔になる朝清を殺す計略であったと柵に語って聞かせる。三左衛門と柵は忠義に背いて天下を横取りすれば、お家の恥辱となると諌言するが、春雄は聞く耳を持たない。三左衛門の命が危ういのを見て、同時に毒酒を飲んだ朝清の様子を探らせるために、春雄は早淵兼馬に朝清のあとを追わせる。命をかけた諌言も空しいと知った三左衛門は、このまま毒で死ぬよりは切腹して主君に悪名の及ばぬようにしたいと柵の止めるのも聞かずに切腹して果てる。
舞台は朝清の乗った船になる。
安土へ向かう朝清の船に見送りとして、早淵兼馬の乗った小舟が近づき、朝清の様子をうかがうが、普段とかわらぬ朝清の様子にあてがはずれ舟を引き返してゆく。朝清が雛絹に琴を弾かせ、ゆうゆうと船の旅を続けていると、今度は鞠川玄蕃が主君からの贈り物と言って怪しい箱を置いて行く。鞠川の言葉の端々から、三左衛門の身に何かあったと悟る雛絹であるが、朝清になだめられる。そして雛絹は朝清の顔色がおかしい事にも気づくが、朝清は箱の中の曲者を討ち取り、海へ落すと何事もなかったように振る舞う。

五冊目
舞台は近江、打出の浜。街道すじの茶店の前で田舎ものの旅人が座り込み、休息している。茶店から、店で休めばよいのにと声をかけられるが、「そこで休むと銭がいる。」と断って、そのまま横になって寝てしまう。
茶店の主人たちは片田の離れ島に海賊たちが巣食い、街道すじはいうに及ばず、近在の国々まで荒らしまわり、お上の手にも負えない次第であると噂話をし、暗くなると危ないからと言って店を閉め帰る。日が落ちて、駆け落ちカップルが通りかかる(このカップル、新口村のパロディです)。このふたりが海賊鰐か瀬九郎の手下、金藤兵へから呼び止められ、身ぐるみはがれて逃げていく。ここへ北畑春雄の家来で水術に長けた三尾嶋大蔵が通りかかる。大蔵はかねてから海賊鰐か瀬九郎の一味となっていた。金藤兵へは鰐か瀬九郎からの命令で、以前奪った此村家の系図と大蔵が小田家から盗んだ赤旗を交換してくるように言いつけられていた。大蔵は春姫に執心であったが、姫は隼人之助に夢中なので、南巌寺の一件で謹慎中の隼人之助をまず切腹させ、春姫をもらってから此村家の系図で領地を横取りし、そのあと小田家を裏切るつもりであると明かす。大蔵から小田家の赤旗を受け取った金藤兵へは勇んで鰐か瀬のもとに帰ろうとするが、先刻茶屋の前で寝ていた旅人にさえぎられ、先ほどからの大蔵との会話をすっかり聞かれていたと知って斬りつけるが、旅人は苦もなく赤旗を奪い、どこへともなく消えうせる。

六冊目
舞台は亡き此村大江の館。大江の後室三浦が謹慎中の隼人之助の身を案じて氏神へ参拝の帰りみちに、見知らぬ娘があとをついてくる。娘は口がきけないが、此村家に奉公したいと白砂に書き、三浦の許しを得て此村家に奉公することになる。三浦が戻ったと聞いた隼人之助は母三浦に謝りながら涙ぐむ。三浦は「そのようにか弱い様子であるから、よこしまな家臣たちに侮られる。」そしてまた「此村大江という武勇にすぐれた父を持ちながら、こんな優男に生んでしまった自分に罪がある」とも言って悔やむ。ここへ御船方の組頭三尾嶋大蔵が隼人之助に面談したいと館にやってくる。大蔵は南巌寺での一件を嘲弄したのち、水練の稽古にことよせて隼人之助を池に落とそうとする。三浦は謹慎中の大切な咎人に、もしもの事があったらどうすると大蔵を止める。大蔵はそれでも隼人之助に乱暴をはたらくが、か弱い隼人之助は手向かいせず、じっと堪えている。大蔵は此村家の系図をもつ海賊を自分が捕らえたのなら、この家の領地と春姫をもらうことが出来るだろうから、館を出る準備をしておけと言い捨てて帰りかかる。この話を聞いた三浦は此村の系図を海賊が持っていると何故知っている?と留めるが大蔵は話を逸らし、海賊相手の戦いに備え、水練の稽古はしているが、隼人之助ならば海賊の島までも行くことができないだろうと嘲って帰ってゆく。隼人之助も系図のことが気になって大蔵の後を追おうとするが、三浦は謹慎中に家から出れば罪を重ねることになると隼人之助を止める。三浦は系図は大蔵が所持し、隼人之助を釣りだして、海賊に殺させようとしているのだと言い、系図を取り戻すにしても大切な一巻であるので、危険をおかして取り戻そうとするのはかえって良くない。時節を待って取り戻そうと隼人之助を説得する。おりしも表に御上使片岡三木之頭様御入りと到着を呼ばわる声が聞こえ、三浦が応対に出る。見れば御上使は春姫であり、手には首桶を携えていたために、三浦はわが子隼人之助への御裁断が下ったのであろうと推察する。隼人之助もまた死装束で春姫の前に現れ、切腹しようとする。春姫は隼人之助を押し留め、不義を言いかけたのは自分の方であり、隼人之助には罪は無い。今日中にこの春姫の首を討って、姫の書いた自白書を添えて、お上に言い訳するようにと隼人之助に申し渡し、隼人之助を助けたいばかりに片岡に頼んで御上使の名代をさせてもらったと言いながら泣き沈む。隼人之助は主君同然の春姫の厚情にいよいよ自分が生きているわけにはいかないと、切腹しようとする。春姫も自害しようとするのを三浦がとどめ、御上使の用件は母の三浦が承ったので、必ず春姫の打首をお上へ差し出すので、しばらく待ってほしいと申し出る。春姫はこの三浦の言葉に逆らえず、次の間で待つことになる。隼人之助も三浦に説き伏せられて、切腹を思いとどまる。そうして三浦は参拝の道すがらに連れて帰った娘を春姫の身代わりにしようとする。こうして口のきけない、お時というその娘を呼び出し、主君のために命を捨ててくれと言って切りかかる。お時は逃げ惑いながら、衝立に「この館の若殿に会わせて」と書き記す。三浦はお時が隼人之助に恋慕して奉公したのだと悟り、そのいじらしさに未来は隼人之助と添わせるからと言って、またも斬りつける。三浦は自らのむごい所業に一度は刀を投げ捨てるが、日も暮れる時分となり、切羽詰った三浦は再び刀を取り上げ、お時を刺す。お時は「あっ!」と叫び差し込まれた刀を押さえ「身の懺悔を・・・」と言い、実は話すことができたとわかる。ここに片岡三木之頭があらわれ、お時が実は亡くなった此村大江の妾腹の娘であり、隼人之助とは腹違いの兄妹であると明かす。三木之頭は亡き此村大江の遺言を三浦に見せ、たしかにお時が夫の娘であったと知る。三木之頭はお時を養女として引き取り、育てたが、春姫の危機に身代わりにしようと、お時を差し向けたと語る。お時は軍学修行のために三木之頭の館に通ってくる隼人之助を兄とも知らず恋慕い、兄と知ったあとにはその罪深さに物を言わない決意でいたと話す。大江の娘であったお時を手にかけた三浦は、このまま生きているわけには行かないと、腹に刀を突き立てる。三木之頭は春姫を娘お時の名を取って時姫と名乗らせ、隼人之助に嫁入りさせることにする。これを物陰で聞いた大蔵は春姫を取られるのが我慢ならず、一同の前に出てきて、自分が系図を持っているからは、そんなことはさせないと、手水鉢を隼人之助に向かって投げつける。隼人之助はこれを受け止めると刀で切りつける大蔵を身軽に避け、大蔵のわき腹に一撃を加えて倒す。弱々しい隼人之助しか知らないものは、その強さに驚く。三木之頭は、幼い頃より隼人之助に武道を教え素質も知り抜いていて、か弱く見せていたのは失った系図を取り戻すための策略であったのだろうと語る。隼人之助はその計略が母からの命令であったことを明かす。また、母が心を込めて育てた若君に自らも付き添う心で名前を三浦之助と改める。この様子を苦しい息のうちに見た三浦は、もう思い残すことはないと言ってお時とともに息絶える。大蔵より此村家の系図を取り戻した隼人之助は海賊の始末をつけるために、大蔵を水先案内人にして、ひとり片田の島へ向かう。大蔵は島へ近づくと縄を切り、泳いで島へたどり着く。そして、三浦之助と名を変えた隼人之助が勇士であることを知って騒ぐ海賊たちを鰐か瀬九郎は落ち着かせ、大蔵に、このままこの島に残って自分の片腕にと言う。そして、天下を覆したならば、我が浅井家を再興すると話す。この話を聞き取った三浦之助は飛びかかり、多勢の相手を苦もなく片付ける。三木之頭は船で寄り来たり、天下を狙う海賊たちを平らげた手柄をさっそく主君へ申しあげようと、三浦之助を船に乗せて安土へ戻る。

七冊目
舞台は宇治の里。小田の後室、お通の方は幼君春若丸のために、腰元たちに布晒をさせている。ここへ京の晒商人と名乗る男が来たり、晒を買わせてくれと言い出す。男は腰元たちにじゃれついて、女たちを追いやると、そっと物陰に隠れる。ここへ加藻朝清の嫡子主計之助が現れ、お通の方に目通りする。主計之助は北畑春雄から、亡き森三左衛門の後室柵とともに安土へ戻るよう申し付けられたと話す。また父朝清の様子も気になるので、今日出発する報告に来たと告げるが、お通の方はあたりの晒を手にとり、もとから白い布であるが、また水に浸し太陽に晒せば、なお白くなる。もし、色をもって染めるならば、もとの清さを失い五色に変わるのも人の心に同じ。と言って主計之助の心底を計ろうとする。父の手で手討ちになるところを春雄に助けられ、また敵対する森家の娘雛絹を妻にしたことで、お通の方から疑われたと思った主計之助は切腹しようとするが、お通の方に止められる。お通の方も森三左衛門の最後を聞いて、これから朝清の身に起こる事も察せられ、頼りに思う忠義の士が消えて行くことを嘆き悲しみ、主計之助もまた無念の思いに沈む。かかるところへ三木之頭が現れ、先ほど忍び入った曲者を仕留めると、早く出立せよと主計之助を励まし、主計之助も晒を腹に巻き、心を新たに出立する。

八冊目
舞台は朝清の城。朝清は帰国して以来、心願を成就のため一室に閉じこもり、百日の潔斎をおこなっている。そして雛絹以外のものを寄せ付けずにいた。今日がその百日目、満願の日にあたり、鞠川玄蕃と大内義弘が訪ねてくる。玄蕃は主人北畑春雄の用件であるので、ぜひともじかに朝清と面談したいと性急に言うが、朝清の妻葉末は夫の様子を語り、雛絹に返事を聞いてこさせるので少し待って欲しいという。義弘は今日が満願の日であるのだから、急がずに少し待とうと言い玄蕃を先に客殿へ行かせる。残った義弘は葉末に朝清の病状を尋ねるが、夫が病気とは思っていない葉末は、義弘の言葉を不審に思いながら毎夜、障子を隔てて話すうちにも変わった様子はないと答える。ここに灘右衛門という船頭がこもに包まれた樽を引きずり、朝清の見舞だと言って訪ねてくる。そして葉末に朝清の病気の様子を聞くが、葉末はまたも夫が病気と聞いて不安になる。灘右衛門は見舞の品と言ってこの樽とわらづとを出し、わらづとは生ものだと言う。義弘は葉末の不安を和らげるように、朝清殿は病気などではなく、そそっかしい灘右衛門の間違いであると繕う。まして、わらづとの中身が魚(生もの)などではなく、金気殺伐であると見て取る。そしてその披露はあとにしようと言って灘右衛門の面会の許しを乞うため義弘は奥に入って行く。灘右衛門は朝清との面会の許しがでるまで、居座る様子でいる。葉末はひとり先ほどからの出来事に重い気持ちになっていたが、にわかに城門が騒がしくなり、主計之助が早籠で戻ってくる。主計之助は都では春雄の奸計で春雄の家臣森三左衛門が命を落とし、同じ毒酒を飲んだ父も本国まで帰ることは出来なかっただろうという噂がたっていると話す。そして春雄は三左衛門の妻柵と主計之助を呼びだし、ふたりに朝清の見舞を申し付け、命があったならば主計之助に報告させ、亡くなっていたならば柵が報告するようにとの指図を受けてきたと語る。葉末は事態をのみこみ、朝清の様子を探らせるために、主計之助を雛絹のもとへ行かせる。雛絹は夫に逢えた嬉しさでいっぱいになり、朝清から口止めされていたにも関わらず、主計之助から父の様子を聞かれると、そう言われれば食事もあまり召し上がらず、手箱の草の根を口にしていると答える。また、亥の刻よりは一人高楼で祈っていらっしゃるという。葉末もこの様子を切戸の陰で聞いていた。葉末は朝清のいる部屋に向かい、主計之助が参上したと夫を呼ぶが返事の無いところへ、庭の草むらから多くの鼠が走り出て、朝清の部屋に向かう。すると中で争う人の声や物音が聞こえ、朝清に投げ飛ばされて出てくるのは春雄の家臣鞠川玄蕃であった。玄蕃は鼠に変じて、朝清を亡き者にする計略であったが、朝清に堀の外まで投げ出され、また鼠の姿となって逃げてゆく。主計之助は父親の命があることを喜び、春雄からの書状を見せようとするが、朝清はそれが春雄に味方せよとの内容であることを見抜き、汚らわしいと言って破り捨てる。また幼君を守りぬけと主計之助に任せてきたのに、その大事な幼君を置き去りにしてきた主計之助を雛絹との縁にひかされて帰ってきたと怒る。主計之助は幼君に忠義をたてると言って、雛絹に一通の手紙を残し、城を出て行く。泣きながら主計之助を追い、泣き沈む雛絹に木陰に立っていた柵がかけ寄り、主計之助を諦めるように諭す。柵は夫三左衛門が主君春雄の計略を成功させるために死んだ事を雛絹に話し、また主計之助の残した手紙を見れば離縁状であった。涙にくれる雛絹は突然、懐剣をのどに突き立てる。おどろき悲しむ柵に雛絹は主計之助と添われぬのなら、死ぬよりほかは無い。未来で夫婦になってくれるように主計之助に頼んで欲しいという。朝清は主計之助もまた死ぬ覚悟であることを雛絹に告げ、雛絹は未来で主計之助と夫婦になることを朝清から許され、安堵して死んで行く。柵は娘の死を嘆き悲しみ、葉末もまた悲しみにくれる。ここへ灘右衛門が現れ、先ほどから話を聞き、主計之助の命を助けようと長持に入れて担ぎだすところへ、何者かに長持を奪われ、この一通を残していったと朝清に渡す。書状の表には「加藻氏へ湖水の何某」と書かれ、なかには歌が書かれていた。「八十川の そのみなもとは かわるとも こころ近江の 末をみずうみ」と朝清が読み上げると、その歌の真意は自分が知っていると、大内義弘が名乗り出る。また義弘は先ほど灘右衛門が持って来たわらづとの中から剣を取り出し、朝清に渡す。朝清はその剣を見て、長らく自分のもとにあった七星剣であり、片岡三木之頭に幼君の守護を任せることのできる勇士を選んで、この剣を渡して欲しいと頼んであった事を明かす。その剣を持って来たということは、この灘右衛門が幼君を守るべき人物と悟る。この灘右衛門は実は備前の児嶋元兵衛と名乗り、軍師として幼君の味方をすると誓う。そして大内義弘は「八十川の そのみなもと」という歌から推察し、主計之助を助けたのは近江源氏の正木左衛門雪総であろうと言う。そして、この人物も立派な軍師として小田に仕えるに違いないと言って朝清を安心させる。これを聞いた朝清の顔色はみるみる変わり、死の時を迎える。

九冊目
舞台は粟津。北畑春雄が大軍をひきいて小田を攻め落とそうとしている。小田の後室、お通の方に七日間の猶予を許しておきながら、不意を打って攻撃しようとする。そこへ春雄の忠臣遠雲九郎左衛門が諫言しようと、制止しようとする番兵を投げ飛ばしながら主君春雄のもとにやってくる。九郎左衛門は「たとえ五十万、百万の大軍があったとて、これらは皆土人形のようなもの。京方(小田方)には知者勇者が集まっていて、侮るとこちらが逃げ回ることになる」と春雄を諌める。春雄は九郎右衛門の諫言を聞き入れ、これからわが陣に加わる兵をとどめてきてくれと指図し、九郎右衛門を追いやる。ほかの側近は九郎右衛門がいなくなると、すぐさま京方を攻める準備をしようとするが、春雄はこれを押しとどめ、行方の分からない正木雪総が京方につくと厄介なので、探し出して味方につけるか、あるいは殺してしまえば後は取るに足らない。正木の居所を見つけ出してから京方を攻めても遅くはないだろうと言って、今晩はこの粟津で過ごすという。ここへ雑兵たちが一人の老人を連れてくる。老人は孫と山参りの帰り道ではぐれて、この陣所に迷いこんでしまったという。鞠川玄蕃は老人の言うことを信用せず、首筋をつかんで何者であるのか白状させようとする。すると老人の懐から紙の鉄砲が転がり落ちる。鞠川玄蕃はその紙鉄砲を取るに足らぬものと捨てようとするが、春雄はそれを制し手にとって眺めてから老人に手に入れた仔細を尋ねる。老人は婿が土産に持ってきたものと答える。これを聞いて春雄はすぐさま馬を引かせ、この老人の家へ向かう。

十冊目
舞台は近江、比良の麓。不動尊参りの人々が、これを建立した老人の家でこの家の娘お谷と話し込む。老人は昨日から孫の大三郎と一緒に粟津へでかけて、まだ戻らないので婿の次郎作が迎えに行ったと話す。次郎作は孝行な婿であるが、刃物を見ると震えだすという病気があり、戦の噂が流れていると聞くとお谷は心配な様子で帰りを待っている。皆が帰ると、やはり顔見知りの長蔵が心願成就の代参にきたと言う。心願成就ならば私も嬉しいと言えば、長蔵は、お谷には「迷惑な事」と言って、鉄砲で取り囲まれた次郎作を連れて戻る。お谷は次郎作にどんな罪があって、このような姿で戻ったのかと聞くと、長蔵は、さる身分の高い後家から良い婿を授けてもらいたいと頼まれて、このあいだから不動尊に毎日祈願していたところが、今朝の夢に「次郎作を婿に」というお告げがあったので、無理を承知で次郎作を婿に差し上げて欲しいと頼まれる。次郎作は舅と子の大三郎を迎えに唐崎まで行ったところで、長蔵に出会い、このことを頼まれ、嫌と言うなら鉄砲でと脅されて仕方なくここまで連れて戻ったと説明する。お谷は不動さまが男をやれと言うなんて阿呆らしいとすねて怒るが、不承知ならば鉄砲で、とまたも脅される。ここで小田家の後室、お通の方が現れ、次郎作を是非とも幼君と世の中のためにかして欲しいと頼む。これを聞いたお谷は、何か仔細があると感じ、承諾する。そのかわりに昨日から行方不明の父親と子の大三郎を探し出して欲しいと頼む。祝言のまねごとが済むと、父親と大三郎の捜索に二人の顔を知っているお谷が必要と一緒に連れていかれてしまう。次郎作はお谷を見送り、鉄砲の難は逃れたが、どうして自分のようなものを婿だのと言って、どんな目的があるのか?と問う。長蔵は短冊を取り出し「八十川の そのみなもとは かわるとも こころ近江の 末をみずうみ」と読み上げる。お通の方は次郎作に、この歌に覚えがあるだろうと問い、長蔵は北畑の大軍が粟津に陣を構え、合戦の用意をしている。この相手になるのは、次郎作しかいないと言い小田に味方して欲しいと頼む。次郎作は、刃物を見れば気を失うような自分では役に立たないであろうと拒絶する。ここへ村役人がこの家を訪ねて、北畑春雄が次郎作を訪ねてくると知らせにくる。長蔵はいよいよ次郎作に味方することを迫り短刀を振り回すと、次郎作は青ざめて倒れてしまう。この様子を見たお通の方と長蔵は、所詮勝てない戦いなのかと思うが、春雄を討ち取る算段をしようと長蔵(実は三浦之助)は出て行く。ここにお谷が戻り、やがて北畑春雄が到着する。春雄もまた次郎作を正木左衛門雪総と見て、春雄の味方につけという。次郎作はまた自分は根っからの百姓で、そんな人物ではないと言いかけると、春雄が言葉を遮り、縄で縛られた舅をつれてくる。次郎作が雪総であるという証拠は舅の懐から出て来た紙鉄砲で、これは正木の家に伝わる「張抜筒」だと春雄はいう。そして舅の命を助けたければ、北畑に味方せよと脅す。次郎作はなおも刃物を見ると震えるような自分が役には立たないだろうと拒絶する。春雄は次郎作、妻のお谷、舅の顔を眺め、それぞれの人相を見て取ると、しばらく猶予を与えると言って、この家を遠巻きに兵に見張らせ、奥の部屋へ行く。お谷は父親の綱を解き、次郎作に父を連れて逃げてくれと言うが、次郎作は春雄を引き寄せたのは舅の望みであると言って、紙鉄砲を春雄に見せたのもこの舅の思惑からであると見抜く。舅は感心し、婿にとったときからただ者ではないと思い、春雄を次郎作に討たせるため、この家に引き入れたと語る。また次郎作が息子と言って連れて来た大三郎は朝清の嫡子主計之助であろうと言い、朝清の敵を取らせるために、毒酒の入った壷を大三郎に持ってこさせる。次郎作は相変わらず煮え切らず、春雄の運の強さには勝つことが出来ないと、朝清の敵を討つ気もない様子に主計之助は無念のあまり腹に刀を突き立てる。それをみた舅は主計之助ひとりではやらぬと、くだんの壷の毒酒を飲む。次郎作は主計之助を押しとどめ、次郎作を婿にと言ったお通の方が実は主計之助の母葉末であると明かし、暇乞いをされよと呼び出す。葉末はお通の方の仰せで、三浦之助(長蔵)とともにこの家に来て、主計之助に夫の遺言を守らせたかったと嘆く。ここに至ってようやく次郎作は自分が正木雪総であることを明かし、二人の自害を止めなかったのは、それぞれの顔に死相が現れていたからであると言い、雪総自身も死相が現れていて、これも春雄の強運のなせるわざなので、あらがう事はできないと悟り、小田と北畑の和睦を整えようとする。雪総は春雄に、将軍の綸旨を幼君に一旦与えてもらう代わりに不動尊の下に埋めた小田家の赤旗を奉るという。春雄は死相の現れた雪総を信用し、綸旨を雪総に渡すと、早くお通の方のもとへ行って和睦を整えよという。雪総は葉末を引き連れてお通の方のもとへ急ぐ。二人が遠ざかったあと、春雄がいろりにの火で狼煙をあげる。それを合図に責太鼓が鳴り、和睦の約束が嘘であり、死相の現れた雪総を恐れることも無いと言って、雪総を待ち伏せして殺すつもりだという。これを聞いたお谷は取り乱すが、ここへ遠雲九郎左衛門が駆けつける。春雄は雪総の打首を持ってきたか?と聞くが、九郎左衛門は春雄に向かい「またしくじったな!」と言い、この周りは雪総の軍勢に囲まれていて、雪総は綸旨を手に堂々と城へ戻ったと報告する。春雄はたとえ城へもどっても、雪総の命は今日かぎり、恐れることなどないと言うが、九郎左衛門は「そういうこなたに死相がある」と言って鏡を差し出すと、春雄にも死相が現れている。春雄は雪総がここへ来るもの全てに死相が現れるように土地を構えたと初めて気がつき、その知略に呆然となる。九郎左衛門は春雄に早くここを立ち去るように進めるが、春雄は笑って、先ほど雪総にわたした綸旨は偽物で、本物はここにあると言ってみせる。それを先ほど死んだはずの老人がむっくと起きて奪い取り、やはり先ほど死んだはずの主計之助に渡すとそのまま主計之助は抜け井戸から逃げてゆく。老人は正木家の旧臣明細道人と名乗り、あたりの兵を投げとばして大暴れをする。春雄は雪総にしてやられているとは思っても、赤旗の所在を確かめよと家臣に言いつけて、逃げ出す。結局、不動尊の下に埋めてあると雪総が言っていた赤旗は見つからず、全て雪総の計略にはまっていたことを知る。

十一冊目
舞台は雪の降り積もる近江、比良の陣。小田の軍師正木雪総は、八陣の計で北畑軍をなやませる。三浦之助、児嶋元兵へなどに取り囲まれた北畑春雄は雪総の申し出を受けて、和睦をし、天下は太平の世となる。