新版歌祭文
座摩社の段
舞台は座摩神社。芝居小屋、占い師、見世物で賑わう境内に山家屋の佐四郎がお百度参りをしている。ここへ瓦屋橋の油屋丁稚久松と久三(下人)の小助が通りかかる。小助は佐四郎の姿を見るなり、仮病で腹を押さえ自分はこれ以上歩けないので、久松ひとりで顧客である小倉の屋敷へ金を取りに行ってくれるように頼む。小助の仮病を本当の病気だと思い込んだ久松は、その場に小助を残し、ひとりで金を受け取りに行く。残った小助は傍らの山伏の小屋に小声で主を呼び、お百度参りをしている佐四郎をカモに金儲けをさせてやろうと持ちかける。小助は山伏に佐四郎が油屋の娘お染にぞっこんで、その恋を成就させたいがためのお百度であると説明し、これから自分が佐四郎に話しかけるので、その内容を聞いておいてくれと頼む。そうして、その後に佐四郎を占いに来させ、立ち聞きした内容を話し、信用させれば金になると持ちかける。山伏としめし合わせた小助は、お百度参りを終え油屋のお染と夫婦になれますようにと願う佐四郎に後ろから近づく。小助は佐四郎に声をかけ、願い事の内容を聞いたと言う。小助に願い事を聞かれ、佐四郎は恥じ入りながら、お染欲しさに親が油屋へ貸した金のことも催促を先延ばしにしてあげていること。また、お染の母親お勝に結納も渡してあるのに、お染の心も聞いてから返事したいと言って、埒があかないと話す。縁談が進展しないことにいら立つ佐四郎は小助にも味方をしてもらおうと、小助からの無心もきいてあげているのにと愚痴を言おうとする。小助は佐四郎の言葉をさえぎり、佐四郎の味方として、いろいろと骨折りをしている証拠に、お染からの文を読んであげようと言う。佐四郎は文を見せて欲しいと頼むが、小助は佐四郎の自分に対する愚痴を聞いては手紙を見せるわけにいはいかないから、小助が文を少しずつ読むので、良い返事の箇所にはいちいち銭をくれるように頼む。小助は手紙の所々で佐四郎の喜びそうな解釈を加え、佐四郎から銭をまきあげる。しかし、返事の結果が思わしくなく、おろおろする佐四郎に小助はお染は丁稚久松を好いているので、この二人を縁切りさせるように祈祷して貰ったほうが良かろうと例の山伏のもとへ連れて行く。山伏は佐四郎の身辺に起っていることを言い当て、信用させると祈祷のためだと言いくるめて茶屋に誘う。小助は茶屋から一人で外に出て来て、外で待っていた仲間の浪人鈴木弥忠太、勘六と三人で久松を罠にかける相談をし、弥忠太と勘六の二人は茶屋で久松を待つ。ここに油屋のお染が久松に逢おうと下女のお伝を伴って現れ、やがて久松も座摩の社へ戻ってくる。気を利かしたお伝が芝居を見に行くと言って、去ったあと、ふたりは逢瀬のために山伏の小屋へ入り込む。茶屋で佐四郎に酒を御馳走になった山伏であったが、お粗末な料理に愚痴を言いながら小屋へ戻り、中のふたりを見てビックリする。しかし見てみぬふりで佐四郎の願いの祈祷に山家屋へ出かけて行く。久松お染も人の気配に裏から出て行く。そうこうするうちに、「喧嘩だ!」の声に久松お染らが外に出てくると勘六と弥忠太がつかみ合いをし始め、弥忠太はそこにあった集金の財布を勘六に投げつける。裏で手を結んでいた小助は弥忠太に血に汚れた財布を洗うふりをさせて、財布をすりかえさせる。小助はすり替えた財布を久松に持たせて、お染ともども油屋へ戻って行く。残った勘六は弥忠太からわずかな分け前を貰うが、ここに久松が集金に行った屋敷の侍岡村金右衛門と名乗る侍が現れ、悪事は全て見ていたという。刀を抜いて切り合いになる金右衛門と勘六。やがて勘六が金右衛門を仕留めると、弥忠太はだまし取った金で高飛びしようとする。しかし勘六から人殺しの罪も自分がかぶるからと言いくるめられて、勘六へ金を残して逃げて行く。そして勘六が金右衛門の死骸の傍へ行くと、死んだはずの金右衛門が起き上がる。実は金右衛門は紀州の源蔵と言って勘六から頼まれ、ひと芝居うった薬売りだった。

野崎村の段
舞台は野崎村。
年の暮れ、久松の養い親久作の娘おみつが病身の母と久作の身の回りの世話に日々をすごしている。ここへ祭文売りが「お夏清十郎」を売り歩き、久作の家の門口に来るが、おみつは忙しそうに追い払おうとする。納戸から出てきた久作は、おみつの気晴らしにとこの本を買う。久作はお夏清十郎の物語とは違って、親孝行なおみつを誉め、久松の年季が明けたら二人の祝言をするので、それを楽しみにと言い残して大阪の油屋へ歳暮の挨拶に出かける。おみつが許婚の久松を思いながら母親に飲ませる薬の準備をしていると、久松を連れた小助が久作を訪ねてくる。小助は入るなり久松が遊女に金をつぎこんで、店の金を横領したので、その談判に来たのだと言う。おみつは、うつむいたままの久松に不安を覚えるが、それでも久松がそんな事をするはずがないと言って、覚えが無いのなら言い訳をして欲しいと久松にうったえる。小助はお染との事も匂わせながら、小倉の屋敷から預かって帰った金が、油屋へ戻ってみると偽金にすりかわっていて、その犯人が久松だというのだった。久作を探して小助が奥へ入ろうとするのを久松は押しとどめ、金をすりかえられたのは自分の落ち度であるので、疑いが晴れるまでは野崎村の自宅にいるようにと油屋の主人から言われて戻ったと訴える。小助は主人から金の詮議をしてくるように内密に言いつけられて来たと言い張って、あたりかまわず大声で罵る。おみつは奥の病人を心配し、もうすこし静かにと小助に頼むが、小助は久作が出てこないのは久松と一味であるからだと言って乱暴をはたらく。ここへ久作が駆け戻り、小助を突きのけ、久松らとは行き違ったが、途中で久松の帰りを知らせてくれる人があったので、急いで帰ってきたと話す。小助は横領の一件で久作が金を払うか、それとも久松を訴人しようかと迫る。久作は落ち着き、大阪への土産にと持って出た藁苞の山芋をすって、とろろをご馳走しようかと言う。いらだつ小助がその藁苞を足蹴にすると、中から金がこぼれ出る。久作は小助にこの金をもって油屋へ帰るように言う。金さえ返せば言い分は無いと帰ろうとする小助に久作は是までお世話になった油屋ではあるが、こんな濡れ衣をきせられたままでは世間に顔向けができない。とは言っても久松を無理に連れ戻すつもりはないと油屋の主人へ伝えてくれと言う。小助は久作から若い頃の自分ならただでは済まなかったところだと脅かされて、すごすごと大阪へ帰って行く。おみつは父の気持ちを思って、話しかけるが何も言わない久作に久松が傍へ寄って、自分の苦境は救われたが、あとで久作の難儀になるのではないかと心配する。久作は小助に渡した金は寺へ寄進するつもりの金だったので、心配はいらない。また、この機会に日柄も良いので急なことではあるが、妻の連れ子だったおみつとこれから祝言をさせ大阪へは返さないようにすると言い出す。久松は突然のことに、断る理由も見つからず久作に言われるまま、ともに奥の病気の母の部屋へ入って行く。以前から慕っていた久松との祝言をひかえ、嬉しそうに仕度をするおみつであったが、ここへ油屋のお染が供のおよしを連れて訪ねてくる。あたりを憚らず大きな声を出すおよしを舟へ戻らせると、お染は久作宅であることを確かめ、おみつに久松が今日戻ってきたはずなので、会わせて欲しいと言う。おみつは油屋のお染だと気づき追い返そうとする。おみつはお染の来訪は口に出さず、母親の部屋から戻った久作のために灸をすえはじめ、久松は肩を揉み始める。だが外のお染に気がついた久松は気もそぞろになり、おみつも嫉妬で落ち着かなくなる。とうとう喧嘩をはじめてしまうおみつと久松であったが、久作はおみつに祝言の仕度をするようにと言って奥へつれてゆく。久松ひとりになるとお染は中へ駆け入り、自分の事は忘れて山家屋へ嫁ぐようにと書き残してあった久松の手紙を見せ、どんな事があっても別れることはできない。貧しい暮らしであっても、久松となら幸せであるから思い直して欲しいと訴える。久松も涙ぐみ、その気持ちは分かっているけれど、油屋のご恩を思うとその罪の重さが恐ろしく、やはり山家屋へ嫁入りするのが家のため、親のためでもあろうと諭す。久松からかたくなに拒否されたお染は、自分と別れて許嫁のおみつと一緒になりたいのだと思い、失望から剃刀で自害しようとする。慌てて止めた久松は、お染の覚悟を見て一緒になれないのなら、ともに死のうと覚悟をする。この様子を聞いていた久作は二人の前に現れ、久松が相楽丈太夫という侍の子であったが、家が潰れたため乳母であった久作の妹の縁で養子に貰ったことを話す。そして、知恵付けにと奉公にやった油屋でご恩のある家の娘と恋仲になるとは、道理をわきまえない人間だと「お夏清十郎」の祭文にかこつけて、二人をたしなめる。久作の心を思いやり、お染は山家屋へ嫁入りすると言い、久松もおみつと祝言すると答えるが、その心のうちは一緒に死ぬ覚悟であった。この覚悟に気づかない久作はさっそくおみつを呼び、久松と祝言をさせようとするが、久作が花嫁姿のおみつの綿帽子を取ると、髪を切り尼の姿になっていた。おみつは久松とお染の様子から、心中する覚悟であると気づき、何としても命は救いたいと自ら身を引こうと考えたのだった。おみつは目の見えぬ病身の母親につらい思いをさせたくないと、母親に気づかれないように久松と来世を契る盃を交わす。皆がつらい涙声を押し殺す姿に耐えかね、お染が自害しようとするのを久作が押しとどめ、このやり取りをおみつと久作だと勘違いした母はおみつの髪に触れ、尼の姿になった娘を嘆き悲しむ。お染はこの様子を見て、ふたたび自害しようとし、久松も死のうとする。久作は二人から剃刀を取り上げ、どうしても聞き分けないのなら、自分から死んで見せようと言う。おみつも久作が死んだのなら自分も生きてはいられぬと言い出す。母親はそんなおみつを褒め、尼になってまで久松とお染を救いたいと思った娘を褒める母親のつらい胸の内を察して欲しいと涙で訴える。三人の情けに死を思いとどまった久松とお染。ここにお染の母が現れ、久作夫婦、おみつの情けに感謝する。そして病人への見舞と言って差し出した箱の中には、さきほど久作が小助に渡した金が入っていた。お染の母はこの金を尼となったおみつへの娘からの志と言い、お染を連れて舟で大阪へ帰って行く。また久松も駕篭で大阪の油屋へ戻って行く。

長町の段
舞台は長町。年の暮れ、節分の夕方、餅つき屋の店先で勘六が餅つきの手伝いをしているところに小助が通りかかる。勘六は油屋に油絞りの仕事に雇われていくと、座摩社での事を覚えているのか、久松からジロジロ見られるのが気味悪いとこぼす。小助はそんな勘六に悪党にしてはまともな事を言うとからかってから、油絞りに勘六を入り込ませてあるのも、久松を追い出すたくらみのため。また明日の大晦日は仕事納めなので朝から来て欲しいと言う。小助はこれから馴染みの女郎のもとへ行くつもりで髪も結い直し、お金持ちに見せるための着替えを準備している。この餅つき屋の隣の古着屋にも羽織を頼んであり、勘六に金持ちのお供の役をさせようと、二人で古着屋へ入って行く。ここへ油屋への帰り道を急ぐ久松が通りかかり、久松の乳母であったお庄とすれ違う。お庄は久松の提灯を見て呼び止め、久しぶりの再会を果たす。お庄は久松の成長した姿を見つめ、亡くなった父親丈太夫に似ていると喜ぶ。また久松への手紙にも書いたが、国もとの殿様に祝いがあって御赦免の望みもあり家が潰れた原因となった刀「吉光」を正月の三日までに探し出すことができたら、家の再興も出来ると励ます。お庄の話を聞きながら久松は今さら国もとへ帰ることも出来ないとは言えずに、急な話でと戸惑いつつ「吉光」はもう手に入ったのかとお庄に尋ねる。お庄はその刀が紛失したあと谷町の質屋に質入れされ、質屋の主に尋ねてもその質入れした人物の名を明かさないことから質屋も一味であったのだろうと話す。久松はその質屋は「山家屋」ではないかと問えば、お庄も山家屋佐四郎という名を口にする。お庄は刀を盗んだのは紛失したと同時に国を出奔した鈴木弥忠太に違いなく、その弥忠太はこの長町にいると話し、刀の手がかりをつかんでいるからには間違いなくお家の再興ができるであろうから、もう少し辛抱して欲しいと話す。乳母の気持ちに感謝する久松は今まで生きて来られたのも、お庄の兄久作のおかげとあらためて礼を言い、刀を質から出すにも金が必要であろう。少しでも助けになればと自分の懐から守袋を出し、金を出そうとする。ところが金を出す弾みにお染と交わした起請文が落ちる。お庄は丁稚としては大金をもつ久松を不安に思い、起請文を返して欲しいという久松に大事なものであるから自分が預かると言って油屋へ帰らせる。あとを見送って、長町の賑わいにまぎれて行くお庄。ここへ「亀」「三」「六」三人のスリが立ち寄って、獲物を取り出し山分けの相談をする。この獲物はお庄からすった守袋だったが、そのお庄が戻ってくるのを見つけて急いで別れ別れに去る。この様子を見ていた勘六はスリのあとをつけていく。お庄は鈴木弥忠太の姿を見つけ、呼び止めると国もとであった刀の紛失事件を話し、弥忠太が質札を持っているのであれば売って欲しいと頼む。その代金として十五両の金を準備したとお庄が話すうちに弥忠太は、その質入れしたのが自分だと言われれば、刀を盗んだ犯人だと言われているようなものだと怒りだす。お庄はそんなつもりで言ったのではないと取り繕い、もしその質入れした人物を知っているのならば、おしえてもらいたいと頼む。弥忠太は気を取り直し、その十五両の金を今持っているのかと尋ねる。お庄が金は旅籠へ置いて来たと答えると、弥忠太は明日その旅籠へ行って話をしようと言い、お庄は旅籠の名を書き付けた紙を弥忠太へ渡そうと懐に手をいれると久松の守り袋が無くなっている事に気づく。お庄は落した守り袋を探しに行きたいと焦るが、目の前の弥忠太を逃すわけにも行かず、急いで立ち去った弥忠太の後を追う。お庄が久松から預かった守袋を奪ったスリは勘六につかまり獲物を吐き出すはめになっていた。この様子を後ろで見ていた弥忠太は座摩社で勘六に騙された一件を言い出そうとするが、勘六はスリの獲物を弥忠太へ譲るかわりに、座摩社の一件を帳消しにしてくれという。守袋に入っていた起請文を読んで久松、お染の起請文と気づいた弥忠太は強請の種になると喜び、これを聞いた勘六は山分けにしてくれと頼む。またこの様子を古着屋の中で聞いた小助も仲間に入れてくれと表通りへ出てくる。小助はすっかりお金持ち気取りになって、どこの色町へくりだそうかと思案するうちに、先刻のスリたちが仕返しに戻り、小助や勘六と乱闘を始めるが、餅取粉で真っ白になって敵味方も分からなくなり、お互いにばらばらと逃げ失せる。

油屋の段
舞台は油屋。大晦日の夕飯時に勘六の姿が見えず、また酒を買いにいっているのかと仲間たちが噂しているところに勘六が帰ってくる。自分をそしる仲間たちに悪態をつきながら、自分の椀に盛られた飯をそのままにして、一寝入りしようと奥へ入って行く。そして皆は昨晩から小助が帰って来ていない事を訝り、またろくでもない女郎屋に入り浸っているのだろうと噂しながらそれぞれ帰って行く。小助は馴染みの女郎を連れて瓦屋橋まで戻ってきたところで、女に帰ってくれと言う。女はどんな屋敷なのか見てみたいと言ってついて来ようとするが、小助は女房がヤキモチを焼くので帰ってくれと追い返す。女は正月の約束を守るよう念を押し、仕方なく帰って行く。小助は物陰で着替え、いつもの下男姿になると竹箒であたりを掃き、打ち水をして働き者を演出する。あたりを憚りながら小声で話すお染と久松。久松あてに届く茶屋からの手紙にお染はヤキモチを焼き、久松に問いただしている。久松は身に覚えがないと否定するが、お染は「久様」の宛名が書かれた手紙を証拠に差し出す。そこへ田中屋という茶屋の掛取が集金に現れる。掛取は「久様」と言ってこの家の主人に会わせてくれと言うが、久松はそんな人はここにはいないと不審ながら答える。掛取は、この油屋の旦那は久三郎と言って、茶屋では「久様」と呼ばれていたと話す。そんな事は知らぬという久松と知らぬでは済まぬという掛取のやりとりに、小助は黙っている事もできず、手招きして掛取を呼び屋敷に集金に来るような不粋なまねをするなと叱る。しかし勘定の為と言われて仕方なく三歩だけ払って、残りはまた持っていくからと言って帰らせる。小助は帰りの遅かったことを久松にたしなめられ、また蔵のものの出し入れが久松に任せられていることが不満で、悪態をつきながら立ち上がって行く。ここへ久松の乳母であったお庄が油屋を訪ねてくる。お庄が久松と話をする間もなく山家屋佐四郎が供を連れて油屋の主人お勝を訪ねてくる。案内を待つ間、お庄は佐四郎に煙草盆をすすめ、刀「吉光」を質入れした人物は鈴木弥忠太ではなかったかと問いただす。佐四郎はそんな事は覚えていないと言い張る。佐四郎はお茶を持ってきた久松に当たり散らし、今夜中にお染を渡さなければ結納に渡した刀と十両の金を返してもらい、お染の事はこちらから断る。そのかわり貸してある金も利息ごとすっかり返してもらうと言い、久松に案内しろと言って奥へ入って行く。結納に渡した刀と聞いて、お庄は「吉光」かと気づき久松を二階で待つと言って立って行く。小助は悪知恵をはたらかせ、蔵にあった結納の十両を盗みだし、目録だけ久松の塗文庫の中に入れる。蔵の結納金が無くなって大騒ぎになり、十両の隠し場所に慌てた小助は傍らの飯椀に盛られたご飯の中に押し込む。結納金がなくなったと聞いて、佐四郎はお勝に詰め寄り、主を気の毒に思った久松は油屋には、いろいろな人の出入りがあるので、自分も含めて今夜中に家の中を詮議しようと申し出る。これを聞いて油屋へ来て間もない勘六は「人の出入りがある」と言うことは、勘六などの新参者を疑っているのかと腹をたてる。久松がそうではないと言い争ううちに小助が結納金を盗んだ犯人は久松であると言って、証拠に久松の塗文庫を持って来て中の目録を見せる。久松は驚き、覚えがないと言うが、小助と勘六は久松を引き据え白状しろと責める。お勝はこれを止め、犯人ならば証拠になるような目録をわざわざ取っておいて自らの文庫にいれておくような真似はしないだろう。それに文庫には鍵がかかっていたのか?鍵がかかっていたのなら、それを開けた小助にも疑いがかかることだと言って、お勝はその場をおさめる。佐四郎は納得せず、久松を代官所に連れて行くと言って小助に詮議させようとするが、お勝は認めず、主の命令に小助は手出しができなくなる。この様子に勘六は黙っていられず、日雇いの身でなら主の言う事を聞かなくても怖いことはないと言って久松に乱暴を始める。乳母のお庄は見ていられず、飛び出して久松をかばう。酔いが醒めてきて腹の空いた勘六は傍らにあった自分の飯を食べはじめる。慌てた小助は止めようとするが、自分の飯を食ってどこが悪いとなおも食べようとする。小助は金が見つからないうちは仕事人すべてに疑いがかかっている。もし、勘六が犯人であれば、盗人に飯を喰わせたことになるので身の潔白が証明されてから、ゆっくり食べたら良いと説得して、ようやく飯茶碗を置かせる。なおも久松を折檻しようとする勘六や小助をお勝が止め、奉公人の詮議は主がすると言う。ここに鈴木弥忠太がお染の起請文を持って強請に現れる。佐四郎の手に渡りそうになるところを、お庄が横から奪い取って自分がこの起請文を買うと言って手付に十五両を払う。お庄は久松に向かい、十三年前に起った「吉光」紛失事件から父親丈太夫が切腹、そのときに介錯した夫三平も切腹をして主の後を追い、妻のお庄は国もとに残って御家再興のために尽力し、やっとその望みが叶い刀を取り戻そうと準備した十五両であったが、この難儀は何としてでも逃れなければならない。お庄は夫三平の忠義を少しでも思うのなら、起請文を破って国もとへ帰り、家を相続して欲しいと久松に頼む。乳母の深い愛情に久松は涙ながら謝る。佐四郎はいら立ち、お庄には残金を準備する才覚はなさそうであるから、自分が買おうかと弥忠太に持ちかける。残金の五百両を即金で払うという佐四郎を押しとどめ、お勝は自分が買うので、さきほどお庄が渡した十五両は返して上げて欲しいと言う。弥忠太は懐から金包みを投げ出すが、お勝はその包みが先ほどお庄が出したものと違うと気づいて弥忠太を詰問する。座摩社で久松が騙られたのも丁度この方法であるので、この詮議をしたら犯人は知れると言う。小助は悪事の露見するのを恐れ、起請文の内容を披露すると言って立ち寄ると、突然勘六が小助を突き飛ばし、起請文をずたずたに切り裂く。そうして飯椀を小助の顔に投げつけると中から小判が出てくる。勘六は何事も三人で山分けと約束したのに、自分ひとりで十両をせしめようとした小助を罵り、これからは久松の味方をすると言い放つ。弥忠太や佐四郎は自分の悪事が露見するのを恐れて、そそくさ帰ろうとするところで、勘六は弥忠太にお庄が出した本物の金を置いて行けと言って、十五両を取り戻す。なぜ急に勘六が味方してくれたのか分からない一同に、勘六は腕の入れ墨を見せる。その入れ墨には父親三平の戒名が書かれていた。勘六はお庄と三平の子で、幼いころからの腕白が災いし手討ちにもなるところを父三平の情けで勘当され、刀の紛失事件を聞いてからは、お家再興のために刀を買い戻そうと様々の悪事をはたらいたと話す。その悪事で主の子である久松が窮地に陥っていると知ったのはたった今だったと、お庄にわびる。お勝はその刀ならばここにあると言って、山家屋から受け取った結納の品を示す。久松の出自を聞いたお勝が「吉光」を結納にと山家屋に望み、手に入れておいたものだった。久松、勘六、お庄の三人は国もとの蔵屋敷へ帰参の願いを出さなければと急いで出て行く。残されたお染はもう久松が手の届かないところへ行ってしまったと悲観し、未来で添い遂げる覚悟をしているところへ、お勝に呼ばれ部屋に入る。お勝は癪が痛むので、腹を押さえて欲しいと頼む。お染がお勝の懐へ手を入れると、腹帯が巻かれていた。お勝は芝居の役者に夢中になって腹の子を宿したが、家のためには堕胎せねばならない。お勝はお染に堕胎の薬を煎じてくれと頼み、またお染にもこの薬を飲んで、山家屋へ嫁入りしてくれと頼む。お染は母親の心を思いやり、嫁入りを承諾するが、やはり死ぬつもりであった。久松も死ぬ覚悟で油屋へ戻り、蔵へそっと忍び込むと扉を小助が閉めてしまう。勘六は持って行った刀が蔵屋敷で偽物であると言われ戻ってくる。本物は弥忠太が持っていると推量し、弥忠太と勘六が刀を巡って争ううち、庭の井戸と蔵の中でお染と久松は別れ別れに心中する。