増補忠臣蔵 本蔵下屋敷
本蔵下屋敷の段
舞台は浅草、加古川本蔵の下屋敷。
本蔵の主君桃之井若狭之介がお忍びで屋敷へ来る。本蔵は饗応のための準備をさせているが、近習の井浪番左衛門は手下のものを使って、この機会にかねてから思いを寄せる若狭之介の妹三千歳姫を奪う魂胆でいる。三千歳姫は塩谷判官の弟縫之助の許嫁であったが、塩谷家の没落によって事情が変わり遠ざけられて本蔵の屋敷に預けられている。若狭之介は高師直からの罵詈雑言に遺恨を持ち、切り掛かるつもりであることを本蔵に打ち明けたが、本蔵は若狭之介には師直を切って恨みをはらすように言いながら、かげで師直に進物を送り、事なきを得たことで世間からは若狭之介がへつらい武士であると噂されていた。また本蔵は塩谷判官が高師直に切り掛かったときに判官を抱きとめ、判官が無念を晴らす事を邪魔した事になり塩谷家から敵視される立場になっている。本蔵は主君若狭之介から謹慎を申し付けられ下屋敷に蟄居しているが、本蔵が成敗されると思っている番左衛門は何かと邪魔な本蔵が打首になった後、同時に主君若狭之介の命をも奪う魂胆で茶釜の湯に毒薬を入れる。ここに三千歳姫が縫之助恋しさに泣きながら登場する。縫之助と自分の運命を嘆き悲しむ三千歳姫に番左衛門が言い寄るが、一部始終を見ていた本蔵が三千歳姫と番左衛門の間に入り、番左衛門に抱きつかれる。本蔵から人非人呼ばわりされた番左衛門は、本蔵が師直に進物を送ったことで主君に悪評のたった落ち度を責められる。本蔵はその罪を認めつつ、しかし横恋慕はしないと言って暗に三千歳姫への無礼や茶釜の湯に入れた毒のこともにおわせる。番左衛門が閉口するところへ、主君から加古川本蔵を成敗するので縛り上げて奥庭へ引き出すようにとの命令が下る。本蔵は番左衛門に引っ立てられ奥庭へ行く。本蔵を前にした若狭之助は、師直への恨みを晴らす所存を打ち明けたときに、本蔵が松の木を一枝を切って、金打して賛同を誓ったにもかかわらず、かげでは自分を裏切って師直に進物を送っていた事を詰問する。本蔵は主君の短慮を諌めなくては不忠となり、諌めれば主君の命令に背くことになる。松の枝を切ったのは松の木偏を取れば「公」が残る。公がつつがなく続くようにと枝を切ったのは主君への諌言であったと明かす。若狭之介は本蔵に、主君の受けた恥辱はどう晴らすと聞いて、事後すぐに切腹しなかった本蔵を成敗すると言い出す。本蔵は覚悟を極め、その前に茶釜の湯の事を主君へ伝えようとして番左衛門にさえぎられる。番左衛門が本蔵を手討ちにしようと立ちかかると、若狭之介がそれを止め自分が成敗すると言って番左衛門から刀を受け取り、本蔵を切ると見せかけて番左衛門の首を打ち落す。若狭之介は本蔵の縄も切り、主従としての別れを告げる。若狭之介は本蔵が妻子を山科へ向かわせ、自分は大星由良之助に討たれる覚悟であると察していた。若狭之介は短慮な自分を諌めてくれた本蔵に感謝し、このような忠義の家臣に別れを言わなければならない辛さを語ると主従は涙にくれる。そして本蔵が茶釜の湯を庭の鉢植えにかけると、たちまちに草木は枯れ、番左衛門が入れた毒薬の事が露見し、本蔵はこの罠にかからなかった主君の強運を讃える。若狭之介は本蔵への餞別に尺八と虚無僧のかける袈裟を送り、由良之助への土産と言って高師直の屋敷の見取り図を与える。主従が別れの盃を交わすと三千歳姫も本蔵へのはなむけとして、別れの琴を弾き歌で送る。若狭之介は本蔵に別れを告げ出立させる。